肝炎とは、肝臓の細胞に炎症が起こり、肝細胞が壊される病態です。その原因には、ウイルス、アルコール、自己免疫等がありますが、日本においては、B型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルス感染による肝炎がその多くを占めています。

慢性肝炎ウイルス感染者(B型肝炎、C型肝炎)は日本で210〜280万人いると推測されています(2011年時点)。また、肝炎ウイルスに感染している人は40歳以上の方が9割以上を占めていますが、最近B型肝炎において若い人の感染も増加しています。

肝炎ウイルスに感染していても検査をできるだけ早く受けて感染を知り医療機関で適切な治療を受けることで肝硬変や肝がんといった深刻な症状に進行するのを防ぐことができます。現在、ウイルス性肝炎は治る、もしくはコントロールできる病気になっています。ウイルス性肝炎についての正しい知識を得て、早期発見・早期治療に結びつけましょう。

肝炎ウイルスとは?

肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型などがあり、A型・E型肝炎ウイルスは主に水や食べ物を介して感染し、B型・C型・D型肝炎ウイルスは主に血液・体液を介して感染します。これらのウイルスは主に肝臓に感染し、炎症を引き起こします。それがウイルス性肝炎です。

■A型肝炎ウイルス

主に水や食べ物を介して感染します。日本も以前は感染者が多かったのですが、衛生状態の改善により、感染者は劇的に減少しています。ところが、感染者の減少に伴いA型肝炎に対する抗体を持っている人の割合も減少してきています。特に若い人の抗体保持者は少なく、そのような人が衛生状態の悪い国において感染、もしくは輸入食品で感染する事例が多く報告されています。また、男性同性間の性的接触により感染する場合もあります。慢性化することは、ほぼありません。A型肝炎ウイルスにはワクチンがあるため、ワクチン接種により予防することができます。

■B型肝炎ウイルス

主に血液・体液を介して感染します。以前は、B型肝炎の主な感染ルートは母子間(垂直感染)でしたが、わが国では1986年にB型肝炎の母親から生まれてきた子供に対し、ワクチン接種が開始されて以来、母子感染は激減しました。また、近年ではしっかりとした感染対策が取られ、輸血を含め、医療行為による感染はほとんどなくなりました。B型肝炎ウイルスが免疫機能の正常な成人に感染した場合は、ほとんどが急性肝炎の形態を取り治癒します。しかし、健康成人が感染しても慢性化しやすい欧米型のB型肝炎(ジェノタイプ A)が、特に性的接触等により増加しています。B型肝炎ウイルスに対するワクチンがあり、多くの方でワクチン接種による予防が可能です。

■C型肝炎ウイルス

B型と同じく、主に血液を介して感染します。以前は輸血による感染が非常に問題となっていましたが、1992年に輸血血液についてより高感度なC型肝炎ウイルス抗体検査が導入されたことにより、輸血による感染はほとんどなくなりました。性的接触による感染は少ないのですが、覚せい剤等の注射の回し打ち、入れ墨(タトゥー)等の針の使いまわし、不衛生なピアス処置などにより感染します。

■D型肝炎ウイルス

血液等を介して感染しますが、B型肝炎ウイルスに感染している人にのみ感染します。D型肝炎ウイルスの重感染により、肝炎が増悪することがあります。

■E型肝炎ウイルス

主に水や食べ物を介して感染します。近年、わが国においては豚、イノシシ、シカのレバーや加熱不十分な肉の摂食によりE型肝炎を起こした例が複数例報告されています。慢性化することはありませんが、妊婦が感染した場合、重篤な経過をとることが報告されています。

B型肝炎について

B型肝炎は、B型肝炎ウイルスに感染している人の血液や体液を介して感染することにより起こる病気です。感染経路としては、出産時のB型肝炎ウイルス感染者の母親から子への感染(垂直感染)とそれ以外の感染(水平感染)とがあります。B型肝炎は感染した時期や健康状態によって、一過性感染で終わる場合と6カ月以上にわたって感染が持続する持続感染とに分けられます。現在の日本の感染者は110万人~125万人(2011年時点)と推定され、その多くは60歳以上の高齢者ですが、近年では性的接触等による若年者の感染も増えています。

①垂直感染と水平感染

■垂直感染:母子感染

母子感染とは、出産時に産道においてB型肝炎ウイルスに感染したお母さんの血液が赤ちゃんの体内に入ることにより感染が起こることです。日本においては、1986年以降、母子感染予防対策が行われるようになっており、出産時でのB型肝炎ウイルス感染はほとんど防げるようになっています。

■水平感染:性的接触・輸血・臓器移植・刺青・針刺し事故等

以前は輸血、集団予防接種での注射器の使いまわし、医療者における針刺し事故等がありましたが、輸血血液については1972年以降、集団予防接種では1988年に感染予防対策が取られ、また、医療者の針刺し事故等もワクチンの予防接種導入により、ほとんど感染例はみられなくなってきました。しかし、現在では性的接触、入れ墨(タトゥー)等における針の使いまわし、覚せい剤等の注射の回し打ち等による感染者が増加しています。特に性的接触感染では、従来の日本のウイルスとは異なる欧米型のウイルスが流行しています。

②一過性感染と持続感染

■一過性感染

思春期以降にB型肝炎ウイルスに感染した場合には、多くの場合は一過性感染で終わります。急性肝炎を起こすことがありますが、大部分の人ではウイルスが排除され、慢性化はしません。また自覚症状がないうちにウイルスが排除される人もいます。ただし、急性肝炎を発症した人の中には、急激に症状が悪化して劇症肝炎を発症し、死亡する例もあります。また近年では、欧米型のウイルス(ジェノタイプA型)による急性肝炎が増加しており、そのうち10%は慢性肝炎に移行するとの報告もあります。

■持続感染

出産時の感染や、乳幼児期に感染した場合は、免疫機能が未熟なためウイルスを排除することができない持続感染者(キャリア)となる場合があります。持続感染者が思春期から30歳頃になると免疫機能が発達するため免疫細胞がウイルスを排除しようとします。その際、感染している肝臓の細胞も一緒に壊してしまうため、肝炎を発症します。多くの場合、肝炎の症状は軽いですが、B型肝炎ウイルス感染者の10~20%の人は慢性肝炎へと進行し、その中から肝硬変、肝がんを発症する人も出てきます。

C型肝炎について

C型肝炎は、感染している人の血液や体液を介してC型肝炎ウイルスに感染することにより起こる肝臓の病気です。日本の感染者は100万人~150万人(2011年時点)と推定され、その多くは60歳以上の高齢者です。しかし近年の新規感染者は若年者が多く、覚せい剤等の注射の回し打ちや入れ墨(タトゥー)やピアス等の針の使いまわしによるものと推測されています。

C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の方が持続感染となり、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと進行しますが、自覚症状がないことも多く、感染していることを知らない方や知っていても医療機関に受診されていない方が多いのが現状です。C型肝炎ウイルスに感染すると約70%の方が慢性肝炎を発症します。その後、およそ20年で約30~40%の人が肝硬変となり、そのうち年率約7%の方が肝がんへと進行します。わが国の肝がん患者の70%はC型肝炎ウイルス感染者であり、年間3万人の方が肝がんにより亡くなっています。

 

検査を受けた方が良い方

以下の方は特に、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べるための検査を受けることをお勧めします。

・これまでB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない方
・ご自身のB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス検査の結果をご存じでない方
・ご家族にB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染している方、肝がんの患者さんがいる方
・健康診断の血液検査で肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT))の値の異常を指摘されたが、まだ・医療機関を受診されていない方
・母子感染予防策が実施されていなかった1985年(昭和60年)以前に生まれた方
・輸血や大きな手術を受けた方
・入墨(タトゥー)を入れたり、医療機関以外でピアスの穴をあけたことがある方

B型肝炎ウイルスには以下のような感染経路も考えられます。

・集団予防接種の際に注射器の連続使用が行われた場合
※国は予防接種実施規則により、昭和33年に注射針について、昭和63年に注射筒について、被接種者ごとに取り替えることを定めています。

なお、肝機能検査上、異常がない場合でも肝炎ウイルスに感染している場合がありますので、一生に一度は肝炎ウイルス検査を受けることをお勧めします。

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